食品ロス削減に向け
「できる」を見つけ「やれる」に出会う。
ヒント探しの旅のはじまり。

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2023.10.10キユーピーグループに聞く、食を通じて社会に貢献する。志をひとつに、食品ロス削減へのあくなき挑戦。

はっけん度

#パッケージサラダ#製造・加工#調味料

キユーピーグループは、家で調理して食べる「内食」、惣菜などを買って食べる「中食」、お店などで食べる「外食」といった食シーンに対応した事業を展開しています。グループ全体の課題として食品ロスの削減・有効活用を掲げ、食品残さ削減、野菜未利用部の有効活用、商品廃棄の削減に取り組まれています。

  • キユーピーグループについて

    キユーピー株式会社
    1919年創業。マヨネーズ・ドレッシングのほかにも、パスタソース、ベビーフード、介護食などを製造・販売。

    株式会社サラダクラブ
    1999年にキユーピー株式会社と三菱商事株式会社の共同出資により設立。洗わずに食べられる「パッケージサラダ」を製造・販売。

    キユーピータマゴ株式会社
    2018年設立。液卵や茹卵、卵加工品など、主に業務用の商品を開発・製造・販売。

お話をうかがったのは
キユーピー株式会社 生産本部 環境対応推進プロジェクト 松原由紀さん
株式会社サラダクラブ 生産本部 小宮正和さん
キユーピータマゴ株式会社 経営企画室 サステナビリティ推進課 加藤健仁郎さん

※2023年8月取材。本文中の肩書きは取材時のものです。
(左)加藤健仁郎さん (中央)松原由紀さん (右)小宮正和さん

食資源を決して無駄にしない。キユーピーグループに根付く企業カルチャーとは。

  • キユーピーグループの食品ロス削減への取り組みを教えてください。

松原さん 創業当初からマヨネーズに使用しない卵白を販売し、卵殻は肥料に活用するなど、限りある食資源を有効に使ってきたので、食品ロス削減の意識は企業カルチャーとして浸透していると思います。2003年からは生産現場で“ムダを取ることで夢を多く採る”という意味を込めた「夢多゛採り(むだどり)活動」という改善活動も始まりました。

小宮さん 「夢多゛採り(むだどり)活動」は会社側が目標を設定するのではなく、従業員一人ひとりが目標を設定し、それに向かって自主的に取り組む現場主導の活動というのが特徴ですよね。

加藤さん 松原さんは、環境に関するトピックスをまとめた新聞を発行したり、工場に出向いて話をされたり、社員全員が楽しみながら活動できるよう尽力されていました。

松原さん 工場は女性従業員が多いので、コストやロス削減の必要性を家計に例えて説明するなど、自分事と捉えてもらえるよう工夫しました。当初は戸惑いがちだった従業員も、足を運ぶうちに前向きに取り組んでくれるようになって。自分たちの取り組みによってどれだけコストやロスが削減できたかが具体的な数字となって現れるようになると、積極性がどんどん高まっていくのを感じました。

小宮さん 特に生産現場では「夢多゛採り(むだどり)活動」が完全に定着していますよね。この活動によって、従業員がやらされるのではなく、やりたいという意識を持つようになったと思います。

加藤さん グループのサステナビリティ推進部も情報を積極的に共有し、それぞれの会社で新たにできる取り組みにつなげていますよね。なかでも松原さんはたくさんのアイデアや情報ソースをお持ちなので、本当に頼りになります。

松原さん 相談してくれるとつい応えたくなるんですよ。マヨネーズ、野菜、卵と扱う商品は違っても、食品ロスをどうにかしたいという志は同じですから。食品ロス削減につながるアイデアがすぐに出せるよう、お付き合いのある外部の企業に伺って有益な情報を得るなど、常にアンテナを張り巡らせています。

小宮さん グループの工場単位での情報交換も盛んですよね。ほかの工場がいい取り組みをやっていると聞いたら、積極的に自社の工場でも取り入れる。食品ロス削減にむけてグループ全体で日々アップデートしていると感じます。

マヨネーズの残(ざん)さを資源に変える。その斬新な発想とは。

  • 松原さんは食品ロスにつながる廃棄物の中でも、とくにマヨネーズの残さに注目されたと聞きました。

松原さん 製造ラインの配管洗浄によって排出されるマヨネーズの残さは、これまで焼却処分されていたのですが、もともと製造現場にいた私には、大切に作ったマヨネーズが処分されてしまうことが本当に心苦しくて。良い活用方法はないか、ずっと考えていました。

小宮さん わかります。私たちサラダクラブでも農家のみなさんが丹精込めて育ててくれた野菜をしっかりと使い切らなくては、と思っています。

松原さん 解決の糸口はなかなか見つからなかったのですが、偶然、マヨネーズを冷気のそばで保管すると分離するということを知って。処分されるマヨネーズを集めて冷凍して油を分離させ、その油を取引のあったインク・塗料会社へ販売することができました。

加藤さん その後、油以外のマヨネーズ残さのバイオガス発電活用にも取り組まれたのですよね。

松原さん キユーピーグループの製造で出る野菜の皮などを家畜の餌として有効活用してくれる養豚農家の方が、養豚農家で出る家畜の排泄物等を活用し、メタンガスを生成させて発電する施設を運営されていたのですが、家畜の排泄物だけでは十分にガスを生成できないという話を聞きまして。そこで、マヨネーズの残さでその不足分を補えれば、お互いの悩みを解決できるのではないかと思いつき、すぐ取り組みを開始しました。

小宮さん 松原さんのこの取り組みは社長賞に選ばれましたよね。

松原さん 最高の誉れですね。社長賞は新商品の開発などで受賞できるものだと思っていたので、会社や部門の垣根を越えた取り組みが認められて本当にうれしかったです。と同時にマヨネーズの残さでバイオガスを生成するという難しい課題に、諦めずに一緒に取り組んでくれた工場の方への感謝の気持ちでいっぱいになりました。

小宮さん 今まで使えなかったものを使えるようにするアイデアは本当に素晴らしいです。サラダクラブでも野菜の未利用部を使った商品の開発など、外部の企業と協働で様々な取り組みを行っています。

加藤さん キユーピータマゴも独自の製法で、卵殻と卵殻膜を分離することに成功し、卵殻膜は化粧品原料として活用しています。もともと卵白はかまぼこなどの水産練り製品やケーキなど菓子の食品原料に、また年間約2万8千トン発生する卵殻は肥料やカルシウム強化食品の添加材などに活用してきたので、卵殻膜の資源化によって卵の100%活用が実現できました。

未利用部を活用し、食に還(かえ)す。その取り組みとは。

  • サラダクラブ、キユーピータマゴで行っておられる、食品ロス削減の取り組みを具体的に教えていただけますか?

小宮さん サラダクラブは、1999年から手軽に野菜が摂取できる「パッケージサラダ」を製造してきたのですが、その過程で発生するキャベツやレタスの外葉、芯など野菜の未利用部をどうにか有効活用できないかと考えていました。そこで始めたのが野菜の未利用部の飼料化です。この取り組みが成功したのをきっかけにたい肥化にも着手し、現在は7カ所の製造工場内に「発酵分解装置」を導入してたい肥を作っています。

松原さん どうしても出てくる廃棄物をどうしたら活用できるか常に考えているからこその発想ですよね。

小宮さん 今では野菜廃棄物で作ったたい肥を契約産地で活用していただき、そこで育てられた野菜を納入してもらう循環型の取り組みも進めています。たい肥を変えることに難色を示していた農家さんにも、サラダクラブが開発したたい肥のサンプルをお渡しし、導入に成功している農家さんの情報を提供するなどして納得いただきました。農家さんからは、私たちが供給しているたい肥はそれまで使われていたものより雨に強く、また一部の野菜は育ちが良くなったとおっしゃっていただいています。

加藤さん まさに循環型農業ですよね。キユーピータマゴでも1950年代から卵殻を土壌改良材として農家へ販売していますが、稲作に卵殻を使うと土壌が豊かになり、米の収穫量が上がると喜んでいただいています。卵殻を使って作ったお米は「卵殻米」としてキユーピーの社員食堂でも提供していますよ。

小宮さん サラダクラブでも規格外の野菜を社員食堂で扱う取り組みを始めました。年間約30,000トンという日本でのキャベツ使用量トップクラスの企業として未利用部の新たな活用方法を常に考えています。最近では6月に、キャベツの未利用部を使ったスープの食品も開発しています。おかげで「野菜廃棄物ゼロ化」を実現できました。

加藤さん 「野菜廃棄物ゼロ化」って本当にすごいことですよ。

松原さん とくに未利用部を人が口にする食品にする「食を食に還(かえ)す」取り組みは、食品を扱うメーカーとして理想的ですよね。

これからの社会のために。キユーピーグループの次なるチャレンジとは。

  • さまざまな形で食品ロス削減を実現されていますが、今後の課題はありますか?

加藤さん キユーピータマゴは、卵焼きやオムレツなど、外食産業に向けた業務用の卵加工品を主に製造しているのですが、少し焼き色の強くなったものや形がいびつになってしまったという規格外品がどうしても出てきてしまいます。キユーピーの社員食堂で提供するなどの活用もしているのですが、なかなか追いつかず。食品ロス削減に取り組む立場として、一般の消費者の皆さんにもう少しだけ寛大になっていただき、規格外品でも受け入れていただける世の中を作っていきたいと思っています。

小宮さん 加藤さんのおっしゃるとおり、消費者の皆さんに向けた啓発活動は大切ですよね。サラダクラブでも流通やご家庭での食品ロス削減を目指し、千切りキャベツ・ミックスサラダは洗浄方法やパッケージなどを工夫し、加工日に加え5日間鮮度保持できる技術を業界で初めて確立しました。今後も、野菜の外葉や芯などご家庭で捨ててしまいがちな部位を使ったレシピの開発も含め、ご家庭での野菜廃棄物削減の一助となる取り組みを積極的に行っていきます。

加藤さん 鳥インフルエンザの影響で低迷した卵加工品の需要をいかに回復するか。私たちに卵を提供してくれる生産地さんを守ることも使命ですから。

小宮さん サラダクラブでも、農家さんに安心して野菜づくりに取り組んでもらえるよう、豊作の時はパッケージサラダの容量を多くするなどして、余剰野菜を処分しなくていい取り組みを行っています。

松原さん やれることはまだまだありますよね。マヨネーズ残さの再資源化も、外部とのつながりから色々な情報を集め、他企業と協働し、新たな取り組みを行っていきたいです。食品ロス削減の方法に100%の正解はないですから。

小宮さん 同感です。サラダクラブでも、飼料やたい肥化、未利用部の商品化で野菜の廃棄ゼロに成功しましたが、ほかの方法もあると考えています。これからは食品以外の活用にも積極的にトライしていきたいですね。

加藤さん キユーピーグループでも卵殻を土壌改良材や肥料としてだけでなく、プラスチックなど工業製品に利用する方法を考えています。

松原さん 創業以来、限りある資源に感謝と大切にしたいという気持ちを社員全員が持ち続けてきました。これからも食品ロスを減らす努力を続けることと同時に、ロスになってしまった資源は新たな価値に変革する努力を社内外のみなさまと連動する!その人との繋がりを大事に、楽しさも持って取り組んでいきます。

執筆:河野聡子(有限会社キーノート)
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject)/ 河野聡子(有限会社キーノート)
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン