2023.10.26キユーピータマゴに聞く、タマゴのリーディングカンパニーをめざし挑み続ける卵の100%有効活用法とは
はっけん度
キユーピーグループでの卵の使用量は約25万トン、日本で消費される鶏卵の約10%を占め、さらに卵を加工した後に排出される卵殻は約2.8万トンにも上ります。キユーピータマゴは長い年月をかけ、卵の100%有効活用化を実現しています。
お話をうかがったのは
※2023年8月取材。本文中の肩書は取材時のものです。
キユーピータマゴ株式会社 経営企画室 サステナビリティ推進課 加藤健仁郎さん
卵黄から卵白、卵殻、卵殻膜まで。捨てるところがない卵の本来の姿とは
キユーピーでは「食品ロス」という言葉がなかったであろう1919年の創業当初から、マヨネーズに使用する黄身以外の活用に努めてきました。まず、取り組んだのは卵白の活用です。当初は卵白を生のまま販売していたのですが、日持ちがせず、輸送コストもかかるため卵白を乾燥させる研究を進め、1935年には乾燥卵白の販売を開始。以来、かまぼこなどの水産練り製品や、ケーキなどの製菓の食品原料など様々な食品に利用されています。
1950年代からは大量に出る卵殻を田んぼなどの土壌改良材として再生利用。カルシウムを主成分とする卵殻入りの土壌改良材は、お米の育ちが良くなると好評で、キユーピーの社員食堂でも「卵殻米」として提供されています。近年は、卵殻の可能性を広げるため工業利用の道も開拓。フィールドラインやチョークの原料をはじめ、卵殻の多孔質構造がニオイを吸着し余分な湿気を吸収する性質を利用し壁紙やタイルへのアップサイクルも実現しました。
現在はプラスチック製品に使う炭酸カルシウムを卵殻に置き換える取り組みを他企業と協働で進めています。 また卵を余すところなく使い切るため、卵殻膜という卵殻の内側にある薄皮にも着目。薬品などを使用せず卵殻から卵殻膜を分離させるのは大変難しいのですが、諦めず技術の開発に取り組み、剥がした卵殻膜を化粧品や食品の原料として活用できるようになりました。さらに卵殻膜を除去する技術によって、卵殻を食品として使いやすくなるという二重のメリットも。卵殻をサラサラのパウダー状にまで細かく砕いたカルシウム補給食品「カルホープ」は、自社製品だけでなく、加工食品、麺類、パン、お菓子など幅広い食品に使用されています。
規格外品を取り巻く現状と解決すべき課題とは
今後、力を入れて取り組んでいきたいのは規格外品の活用です。キユーピータマゴでは、ゆで卵や厚焼き卵、オムレツなど、業務用の卵加工品も製造しているのですが、細心の注意を払って製造しても、少し焼き色が強くなったものや形がいびつになってしまったという規格外品がどうしても出てしまいます。
完璧な商品を提供するのが企業の使命とはいえ、見た目が少し悪いだけで処分されるのは食品ロス削減に取り組んできた者としてはなんとも心苦しいです。キユーピータマゴから働きかけ、まず規格外品を社員食堂で利用する取り組みをスタートさせています。現在は他の企業と協働で、規格外品を販売できるルートも探し始めています。規格外品といっても、見た目だけの問題で、味や安全性に関しては変わりありません。キユーピータマゴは業務用商品が主なので、一般消費者の方に直接お届けすることは難しいのですが、規格外品を快く受け入れていただける意識が世間に浸透すれば、処分される規格外品が減り、食品ロス削減につながると考えています。
また鳥インフルエンザの影響で減ってしまった卵の需要の回復も注力すべき課題です。お店などで販売されるお弁当のおかずから一度外れてしまった卵料理をまた元のように入れてもらうのは簡単なことではありませんが、卵の需要を回復することは、生産者さんを守り、生産される卵を廃棄することなく活用することにつながります。キユーピーグループの先輩達が卵の100%活用に向け、高い志と柔軟なアイデアをもって、さまざまな困難を乗り越えてきたように、私たちキユーピータマゴも卵殻などの新たな活用法を見つけ出すとともに、規格外品のアップサイクルにもチャレンジしていきたいと思っています。
執筆:河野聡子(有限会社キーノート)
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject)/ 河野聡子(有限会社キーノート)
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン)/ 江戸明弘(株式会社エンビジョン)