2023.10.30キユーピーに聞く、柔軟な発想と果敢な挑戦で切り拓く食品ロス削減の新境地とは
はっけん度
1919年の創業以来、食品メーカーとして食品ロスの問題に真摯に向き合うキユーピーさん。柔軟なアイデアと他企業との協業により、これまで処分されていた食品残さの再資源化に成功しています。
お話をうかがったのは
※2023年8月取材。本文中の肩書は取材時のものです。
キユーピー株式会社 生産本部 環境対応推進プロジェクト 松原由紀さん
食品残さ活用に込められた想いとは
キユーピーでは、家庭内ストックの賞味期限切れによる廃棄を少しでも削減できるよう、製法や容器包装を改良して開封前賞味期限を延長し、さらに賞味期限の表示を年月表示に切り替えました。また計画的な生産やお取引先との連携で売れ残りによる返品ゼロも実現しています。
このような食品ロスの量を減らす取り組みと共に力を入れているのが、どんなに頑張っても出てしまう食品残さの活用です。私は入社当初、東京都調布市にあった仙川工場でマヨネーズを製造するオペレーターとして勤務していたのですが、部署異動で廃棄物管理の仕事を任された時、製造品目を切り替えるたびに配管に残ってしまうマヨネーズが廃棄処分されるという現実を知りました。製造現場経験者の私にとって、それが本当に心苦しくて。
どうすれば処分しなくて済むのか、考えを巡らせていたところ耳にしたのが、マヨネーズを家庭の冷蔵庫の冷気のそばで保管すると分離するという話でした。そこで、残ったマヨネーズを集めて冷凍し、油を分離させることに挑戦。マヨネーズ残さの再資源化の第一歩として、お付き合いのあったインク・塗料会社に分離した油を販売する取り組みを始めました。とはいえすべての残さを活用するには至らず、本社の社会環境推進室に異動になった後も、処分されてしまうマヨネーズ残さのことが頭を離れませんでした。
出会いが生んだマヨネーズ残さの新たな活用法とは
再び製造現場に携わりたいと志願して生産本部に戻り、出会ったのがキユーピーグループの製造の過程で出る野菜の皮などを、家畜の餌として有効活用する養豚農家です。その方は養豚場の隣で家畜の排泄物等を活用し、メタンガスを生成させて発電するバイオガス施設を運営されていたのですが、実際にお話しを伺うと養豚農家から出る家畜の排泄物だけでは十分にガスを生成できないことが分かりました。
それならばマヨネーズの残さで不足分を補えばいいのではないかとひらめき、バイオガス発電の仕組みを一から学習。マヨネーズ製造工場の同僚の協力のもと、5年の歳月をかけマヨネーズ残さでバイオガスを生成する仕組みを実現させました。現在マヨネーズ残さによるバイオガス発電は、キユーピーの五霞工場、中河原工場、泉佐野工場、神戸工場、グループ会社の株式会社ケイパックで導入され、2022年度は年間のCO2排出量を約980トン削減に成功しています。
キユーピーが目指す、食品ロス削減の今後の展望とは
私が大切にしているのは、常にアンテナを張り巡らせて業種の異なる他企業の方の話に耳を傾けること。現在、キユーピーグループで発生する廃棄物はマヨネーズ、ドレッシング以外にも卵加工品や惣菜などがあります。それぞれに専門の処理業者の方がいらっしゃいます。廃棄物とはいえ、もとは丹精込めて作った製品です。引き渡しにはきちんと立ち会い、現場にも足を運んで正しく処理(再資源化)されているか見届けます。実際に現場に伺っていろいろな方と話をしてみると、食品ロスが新たな価値につながるかもしれない情報が次々と出てくるのです。
マヨネーズ残さのインク・塗料化、バイオガス発電への活用もそうですが、他企業の方との出会いは思いがけないアイデアを生みますし、技術と結びつくことで思いも寄らないアップサイクルにつながることもあります。つまり誰かと力を合わせれば、食品残さ活用の可能性は無限に広がるということ。これからも探究心を常に持ち続け、アンテナを張り巡らせ、キユーピーグループの枠を超えていろいろな企業と協働しながら食品残さの新たな再利用法を見つけ出していきたいと思います。
執筆:河野聡子(有限会社キーノート)
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject)/ 河野聡子(有限会社キーノート)
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン)/ 江戸明弘(株式会社エンビジョン)