食品ロス削減に向け
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2023.10.23キリンビールに聞く、提供までに生じるロスを解消する業務用ビールサーバー「TAPPY」とは

はっけん度

#製造・加工#飲料

2021年4月から全国展開されている、キリンビールの業務用ペットボトルビールサーバー「TAPPY(タッピー)」。カウンターに置けるほどコンパクトで、日常的な交換・洗浄作業も簡単でありながら、交換・洗浄時に生じていた廃棄ビール量の削減も実現しました。TAPPY開発に至った外食産業の変化や課題、そして導入後の反響は、どのようなものだったのでしょう。

お話をうかがったのは
キリンビール株式会社 マーケティング本部
営業部 料飲政策担当 主務 立川裕康さん

※2023年8月取材。本文中の肩書は取材時のものです。

外食業界が抱えていた、樽詰めビールの廃棄ロス問題

外食産業では今、「1杯目の生ビール」、いわゆる「とりあえず生(ビール)」とオーダーされる方が年々減ってきています。もちろん今でもビールで乾杯する方は多いのですが、サワーやハイボールなどビール以外のカテゴリーの人気も相まって、1杯目から好きなものを飲む文化が広まっていることも背景にあります。

加えて、大人数での宴会が当たり前だった時代から、2~3人など小グループでの飲み会が2000年代後半から顕著に増え始め、飲食店で1日に飲まれるビールの比率もどんどん下がっている傾向にあります。

一方で、私たちキリンビールが飲食店に提供している「業務用樽詰めビール」は変わらず、1樽7リットルが最小容量。いつでも美味しい状態で飲んでいただくために、「サーバー開栓から3日間での使い切り」を推奨しています。味の劣化を防ぐために、飲食店の皆さんは毎日サーバーを洗っておられますが、樽の交換時には、ホースに残ったビールを廃棄しなければなりません。

廃棄ビール1回の量は決して多くありませんが、年間で考えると大量のロスにつながります。日々洗浄されている飲食店の皆さんも、おそらく「もったいない」という感覚をお持ちだったろうと想像します。 日本のトータル人口が減っている中、当社では外食機会の減少、飲食シーンでのビール比率の低下など、飲食産業で予測される課題をいち早く想定。その解決に向け、2017年頃から「営業部」と「企画部」、そして当社の技術開発部門「パッケージイノベーション研究所」が合同で動き始めました。そんな中、世界はコロナ禍に。我々が予測していた課題が、皮肉にもコロナ禍によって炙り出された2021年、新しいビールサーバー「TAPPY」の全国展開が始まりました。

これまでの常識を覆したペットボトルビールサーバー「TAPPY(タッピー)」

飲食業態の多様化や飲酒スタイルの変化、飲食店舗で潜在化していた提供前の廃棄ビールなど、ビールにまつわる課題解消を目指して誕生したのが、業務用ペットボトルビールサーバー「TAPPY」です。

TAPPYのペット(PET)ボトルは、30年近くかけて開発したビール専用のものです。一般的なペットボトルの素材は高濃度のアルコールに触れると、ボトル強度が低下したり、ビールの品質自体の劣化や変質を進めたりする恐れがあります。

TAPPYのペットボトルは、遮光性やガスバリアを向上させる素材とコーティング技術を駆使し、炭酸を透過させにくい構造に。しかも保存性能も高まりました。素材には、酒類のペットボトルとして初めてケミカルリサイクル樹脂を採用しています。それによって純度の高いペットボトルに再生でき、容器自体も持続可能なものになりました。ビール樽の場合は、納品や空樽の回収など酒店と飲食店間の運送時にCO2が発生していたので、結果的にCO2排出量削減にもつながります。

TAPPYのメリットは、大きく分けて「美味しい」「かんたん」「おトク」の3つです。TAPPYのペットボトル1本の容量は、グラス約10杯分に相当する3リットル。開栓後の使い切り推奨期間は7日間ですから、いつでも美味しいビールを提供することができます。言い換えれば「7日で3リットル使い切ればいい」ので、飲食店さまの精神的負担もだいぶ軽減されたかなと思います。

また、ペットボトル一本当たりの重さも約3kgと軽く、サーバーの交換もキャップを開けて接続部を被せて回すだけ。オペレーションの説明もしやすいので、幅広い層のスタッフの方に取り扱っていただけます。 注ぎ口までのビール経路が短くなったので、サーバーの交換や洗浄時のビール廃棄もほとんどなくなりました。

「美味しい!」も、食品ロス削減も。「TAPPY」からつなげたい、幸せな未来

TAPPYを全国展開するにあたり、私たちメーカーや飲食店にいちばん勇気をくれたのは、お客様からの声でした。

飲食店側はお客様にTAPPYを導入したことは伝えていないのに、お客様の方からは「美味しい!」「なんか、おいしくなった!?」というリアクションがあったのです。それも、全国展開に向けたテストの段階から予想以上にたくさん聞くことができました。これは、私たちにとっても非常に嬉しいことでした。

もちろん樽の生ビールも、きちんとメンテナンスすれば美味しいビールが提供できますが、TAPPYではそれがより簡単な業で提供できるのが大きなメリット。だから、小型店やご高齢の方が営業される老舗店でも品質の高いビールが提供できる。正直言いますと、飲食店様には「おトク」な部分が響くと思っていたのですが、「美味しいって言われたよ!」と伝えてくれる飲食店様の反応を見て、お客様の声は本当に強いなと気づきました。

ビールの提供率が下がっているのは事実ですが、「美味しい!」という口コミをきっかけにして、いろんな課題解決にもつながっていくのではと、好循環へのポテンシャルを感じています。

もちろん、従来の大樽サーバーが悪いわけではありません。宴会場を確保されている大きな飲食店や樽の生ビールに愛着をもたれている飲食店様は当社にとって大事な存在ですので、これからも変わらない関係を築いていきたいと思います。

おかげさまで小規模店様をはじめ、スペインバルやイタリアン料理店など、ビールをメインとしない飲食店様でもTAPPYの導入が増えています。TAPPYが誕生したことで、店舗規模やお客様の好み・要望に応じてビールサーバーが選べるようになったのは、飲食店様側には大きなメリットだと思います。

「TAPPY」というネーミングは、「TAP(注ぎ口)」と「HAPPY」を掛け合わせた造語です。これまでにも各社からビールサーバーが登場していますが、そのほとんどが性能から派生した名称で、サーバー自体に名前をつけたものはなかったと思います。新しいサーバーを開発するにあたり、みんなに名前で呼んでもらえるビールサーバーをつくりたい、そういう外食の世界を実現したい。そんな思いから「TAPPY」が生まれました。

外食産業に携わる方々が幸せで、楽しくある。それこそが私たちの描きたい未来です。 飲食店様に長く営業を続けていただき、当社も長くモノとサービスをお届けし、お店に来られたお客様にも楽しんでいただく。そして、「縮小産業」と言われている外食産業をより魅力的な産業にするために、「外食飲料の本流」であるビールにどのような付加価値をつけていくか。言葉にするのは簡単ですが、これからもものづくり会社として、誠実に考え続けていきたいと思います。

Information

執筆:森千春(株式会社ワードワーク)
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject)/ 森千春(株式会社ワードワーク)
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン