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2024.01.17東京都足立区「おいしい給食担当」に聞く、健康と環境を守り続ける学校給食とは

はっけん度

「おいしい給食」で注目される足立区。区長の学校給食や子どもたちへの強い思いから発足した「足立区おいしい給食推進委員会」のもと「おいしい給食事業」がスタート。給食メニューのコンクールや積極的な食育授業など様々な取り組みが行われています。学校給食を軸に専門の担当者をおいて食育事業を推進する事例は全国でも珍しいといいます。現在では給食の食べ残しが減少。食品ロス削減にもつながる、おいしい給食づくりにはどういったアイデアやアクションがつまっているのか、取材しました。

東京都足立区教育委員会 学校運営部
おいしい給食担当課長 松本 令子さん

※2023年11月取材。本文中の肩書きは取材時のものです。

食べれば栄養、残せばただのごみ

2023年4月からこの部署に配属されました。以前は、LGBTやジェンダー平等に携わる部署に2年ほどいて、その前は子どもの貧困に関する部署に所属していました。そういったこれまでの経験を踏まえて務めさせていただいています。

足立区による「おいしい給食」の推進ですが、その活動の背景には、東京都の生ごみの中で多くを占めているのが学校給食からでる残菜であることがあげられます。そしてもう一つ、足立区の学校にお子さんを通わせている保護者の方から、同じ足立区内で転校したのにも関わらず、給食を食べなくなったというご意見をいただいたことも。足立区の学校給食は全て自校で調理していますが、同じ環境下なのにどうしてそのようなことが起こるのか課題でもありました。

取材した足立区立加平小学校では、調理室に大きな窓があり、調理の様子が間近で見えるようになっている。

そういった課題に向かい合いながら、足立区の学校給食は「おいしい給食」を推進してきましたが、ただ「おいしい」の追求だけではありません。学校給食を「生きた教材」として、生産者や調理に関わる人たちへの感謝の気持ちや、食に関する学びを大切にしています。今食べているものがどうやって自分の元へ届けられたのか。それら食にまつわる環境問題はどうなのか。一部の学校では給食の時間に栄養教諭による食育授業を取り入れるなど、食に思いを馳せ、心を豊かにする場づくりとしても力を入れています。食べれば栄養になりますが、残せばどんなに栄養のあるものでもただのごみになってしまいます。そうしないためにも、1日のうち1食でも栄養バランスの取れた学校給食を提供することで、子どもたちへ伝えられることはたくさんあると思います。

「給食メニューコンクール」の代表に選ばれたメニューの一例。
栄養教諭による食育の授業。食のことから資源や環境のことまで、幅広く学習する。

栄養士と先生たちとの連携があってこその学校給食

毎月1回、足立区では区と学校の栄養士による「おいしい給食」の検討委員会を実施しています。レシピ交換やアイデアの共有、悩んでいることを相談し合うなどグループワークを行い、そこで得たことを自分の学校へ活かすといった流れができています。このような機会があることで、栄養士同士で「じゃあ、来月はこれを聞いてみよう」と、いい関係性が生まれているのではないでしょうか。もちろん、検討委員会がある日は栄養士は学校を離れるので、送り出してくれる学校の協力は不可欠です。思えば当事業がスタートする前から足立区は各学校に一人栄養士を配置していましたので、学校給食を突き詰める素地はあったのだと思います。

各学校の栄養士たちは本当に様々な工夫をしています。区でこれをやってください、ということはあまりなく、栄養士独自で「おいしい」を目指すのはもちろん、子どもたちのために季節や地域性などを学び、楽しめる献立を考案しています。以前、一週間カレー特集を行った学校がありました。カレーライスだけでなく、カレー味の魚フライ、カレートーストといったメニューを次々と。あの手この手で子どもたちの「食べてみよう!」という気持ちに働きかける、食に対する興味関心を促すようなチャレンジだったと思います。

ランチルームの前には1ヶ月の献立表と、今日のメニューで使用している食材の美味しい食べ方、栄養についてなどが優しい言葉で書かれた給食通信が掲示されている。
今日のメニューは、あんかけうどん、ミソドレポテトサラダ、小魚の南蛮漬け、デザートにはみかん!

ほかに各校の担任や栄養士が工夫していることといえば、給食時間の「声かけ」です。「おかわりする人!」と聞けば、なかなか自分からおかわりしたいと言えない子も「はい!」と挙手します。先生によってはバンダナとエプロンをして、雰囲気づくりから給食を楽しい時間へと盛り上げたりしています。

給食を残す理由として一番多いのは、やっぱり苦手なものが出たときと答える子どもたちが小・中学校とも共通です。そういったことを鑑みて、予め配膳の際に適量を聞いてからよそってあげるケースもありますね。食べられる分量から徐々に苦手なものに慣れてもらう。実際に声かけによって残菜の量は減っていきます。

自分の健康も守れるように、食との関係をつないでいく

「おいしい給食事業」がスタートしてから、平成20年度には381tあった小・中学校の総残菜量が、令和4年度には115tと約3分の1にまで減少してきました。

今後もさらに、楽しく、おいしく、残さないで食べてもらいたい思いはありますが、給食指導の時間は先生たちの関わり方が大きく左右します。やることがたくさんある学校生活の中で、先生たちと一緒に子どもたちへどう働きかけをしていくかは思案し続けていかなくてはならないと考えています。

また、足立区では「おいしい給食」の取り組みと並走して、子どもの時期から簡単でもバランスの取れた食生活を送ることが出来るようになるための「三つの実践力」を推奨しています。その名も「あだち 食のスタンダード」。まず一つ目は「1日3食野菜を食べるなど望ましい食習慣を身につける」。二つ目は「栄養バランスのよい食事を選択できる」。そして三つ目は「簡単な料理を作ることができる(ご飯が炊ける/味噌汁が作れる/目玉焼き程度が作れる)」といった、就学前から中学校卒業まで、段階に合わせた食育を推進し、子どもたちの望ましい食生活の定着に尽力しています。

あだち 食のスタンダード サポートBOOK
おうちでもひと口目はやさいから チャレンジシート

「ひと口目は野菜から」を、足立区では健康になるための合言葉として徹底しています。始まりは糖尿病対策に向けた言葉ですが、現在では就学前の幼い頃から当然のように取り組みが始まっています。

学校給食をはじめ、食との関係を大切にした施策を通じて学び得たことが、大人になっても健康を保てる生活習慣になっていく。私たちの取り組みが、子どもたちの未来を守ることになればと願っています。

取材協力:東京都足立区立加平小学校
執筆:山本洋平(株式会社アバランチ
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject)/ 山本洋平(株式会社アバランチ
撮影:羽田幸平(株式会社エンビジョン)/ 鹿島祐樹(株式会社エンビジョン

取材した加平小学校の栄養教諭へのインタビューはこちらで紹介しています。