食品ロス削減に向け
「できる」を見つけ「やれる」に出会う。
ヒント探しの旅のはじまり。

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2023.10.02消費者庁に聞く、人々の意識に働きかけ、自ら行動する食品ロス削減とは

はっけん度

消費者庁は、消費者行政の「舵取り役」として、消費者が主役となって、安全で安心して豊かに暮らすことができる社会を実現するために設置された機関です。消費者政策の推進に向けて様々な計画を策定されている中、食という分野では、まだ食べることができる食品がムダに廃棄されないよう食品ロスの削減に取り組まれています。「食べ残し」「直接廃棄」「過剰除去」など、今後の食品ロス削減を目指していくにあたり、どのようなお考えをもって施策に取り組まれているのか、取材しました。

お話をうかがったのは
消費者庁 消費者教育推進課 食品ロス削減推進室 室長 田中 誠さん

※2023年8月取材。本文中の肩書きは取材時のものです。

食品ロス削減の司令塔を担い、人々の行動を変えていく

消費者庁にある消費者教育推進課食品ロス削減推進室で室長を務めています。そこでの業務内容はまさに食品ロス削減の推進です。消費者庁はいわば食品ロス削減の司令塔を担います。食品ロス削減の推進については、環境省や農林水産省はもちろん、事業計画では経済産業省、衛生的または貧困の観点からは厚生労働省も関わってきます。そのような各省庁の食品ロス削減の施策を、一体感をもって取りまとめるのが私たちの役目となります。

また、私たちの役目は何も司令塔を担うだけでありません。食品ロスの推定値は現在およそ523万tで、このうち食品関連事業者から発生する事業系食品ロスは半数にのぼります。残り半数は家庭から発生する家庭系食品ロスといわれています。この実態を受けて消費者庁としては、消費者の行動変容を促していていかなければなりません。そもそも消費者に深く関わる機関として、人々の行動を変える提案や施策を打ち出すことは、私たちの強みであり司令塔とともに重要な役目です。

※2023年現在

地域や個人レベルで、食品ロスを自分ごと化してもらう

食品ロス削減の行動変容は、国の啓発だけでは草の根的に広がっていきません。そこで着目したのが地域のコミュニティです。例えば、婦人会もそうですが、地域には様々なコミュニティがあります。そこで活動する方々に、食品ロスの問題を知っていただき、コミュニティの中でファシリテーター的な役割になれる人を育成しようと考えました。そこで食品ロス削減への理解、そして自分ごと化してもらえるための教材の制作に注力しました。

次いで食品ロス削減推進サポーター制度を立ち上げるとともに、私たちが作った教材をベースとしてサポーターを育成する講座を開講することに。受講者の方たちが地域で活動した内容を年に1回フィードバック、さらにそれに賛同した方がまたサポーターとなる、この一連のサイクルによって、食品ロス削減の行動が地域に根ざしていくことに期待しています。2022年からスタートしたこの取り組みは、すでに2,000人のサポーターがいます。教材としている「食品ロス削減ガイドブック」は、消費者庁のホームページからどなたでも閲覧できるようになっています。

消費者庁では、食品ロス問題に関心のある方々と双方向で意見交換ができるオンラインコミュニティを開設しました。そこで消費者の方々の生の声を聞いてやりとりしています。さらに今後の啓発のためにAI解析により「消費者に刺さるワード」の研究にも努めています。最近そこで分かったことは、「ムダをしてはいけません」といったネガティブな呼びかけは刺ささらないこと。そうではなく「食べ切ったら気持ちがいいよね」といったポジティブな呼びかけが効果的です。

実際に某球場の飲食スペースで「完食してくれてありがとう」というフレーズが、のぼりやスコアボードなど球場内で使われているのですが、そのフレーズを使った日と使わない日では、食べ残しが1割も違ってくるという結果があります。大規模イベントはもちろん、2025年の万博も含めて、そこでもポジティブな呼びかけが必要だと思いますし、そういったこともオンラインコミュニティで意見を出し合ったりしています。

また、オンラインコミュニティでは、「食品ロス削減ガイドブック」内にあるタイプ別診断が好評です。「作りすぎタイプ」「買いすぎタイプ」「ためこみタイプ」など、まずは自分がどのようなタイプなのか、自分を見直すことから食品ロス削減について考えることも有意義ではないかと思います。

日々の暮らしから気づきを、そして未来への取り組みも

食品ロス削減を行うと何がいいのか、実感してもらうことも大切だと思っています。
京都市の推計ですが、4人1世帯で年間どれくらいの食品ロスが出るかということを金額で換算すると、年間5万6000円になるといいます。一般に食費は1世帯1ヶ月6万円ぐらいなので、実は1ヶ月ぐらい分は、買っておきながら捨ててしまっているという現状です。だとすると、ロスを抑えれば家計にも優しいということがいえます。

さらにその5万6000円を6割以上減らすことができれば、今の物価高を吸収できるというデータもあります。このような話を消費者の方にすると、食品ロス削減も節電と同じように日々気をつけてやっていかなければいけないという意識が働きやすいようです。どのように実感してもらうのか、そのコミュニケーションの仕方は引き続き私たちの工夫すべきところです。

食品ロス削減の中でも、なかなか実感、まして意識してもらうのに難しいのが「過剰除去」です。過剰除去とは野菜や果物をご家庭で調理する際に、本来食べられる部分まで切って捨ててしまうことを指します。

約200自治体が行なった家庭から出るゴミ袋の中身の調査によると、野菜や果物の皮などと一緒に過剰に可食部分が捨てられているのが多く見受けられました。ブロッコリーの茎などは最たるものです。食べることが出来ないと思われている方々もいるのでしょう。私たち消費者庁としては、ジャガイモなどの例外はあるものの、野菜の皮は食べられることを基本とし、外部のレシピサイトとも連携して食べ方の普及、啓発にも注力しています。

https://twitter.com/caa_nofoodloss/status/1698591732001378652

消費者教育推進課食品ロス削減推進室の公式X(Twitter)でも、食べきりレシピや食材の保存方法など、食品ロスを防ぐ方法が投稿されています。

これから力を入れていきたいのが、フードバンク活動の活性化です。企業が様々な理由で抱えてしまった在庫は、それぞれの企業の様々な努力や工夫によって食品ロスを回避するものも増えてきましたが、やむなく廃棄され食品ロスとなってしまっているものも少なくありません。消費者庁では、それらがフードバンク団体に流れていくような仕組みにできないものか思案しています。なぜ企業がフードバンク団体と連携することを敬遠するかという理由には、「その団体が信頼できる相手なのかどうか」、「届けたい人たちに届けてくれるのか」という懸念があります。私たちはその懸念を払拭し、流れを変えたいと思っています。企業側がフードバンク団体を安心して選定しやすいように、国が認定するといった法的な整備をすることで、フードバンク団体を通じて食品提供が進むことが目的です。

必要な場所へ、必要な食品を。それは食品ロス削減だけでなく、ひいては貧困対策にもつながります。さらに未来へ向けて、若者世代にも押し付けでなく自ら行動を変える働きかけが出来るように、私たち消費者庁の食品ロス削減への取り組みをこれからも続けていきます。

執筆:山本洋平(株式会社アバランチ
取材:明石麻穂(ロスをロスするProject)/ 山本洋平(株式会社アバランチ
撮影:鹿島祐樹(株式会社エンビジョン)/ 羽田幸平(株式会社エンビジョン
イラスト:三橋元子(ロスをロスするProject)